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コンタクトセンターDX最前線

【Vol.22】ベテランオペレーターの思考パターンを生成AIで再現できるか?

2024/08/26

PwCの調査結果(生成AIに関する実態調査2024 春)によると、生成AIの活用で期待以上の成果が得られた企業の多くは「生成AIにインプットするデータが十分整備されていた」と回答している一方で、期待した未満の成果しか得られなかったという企業はその要因に「データが十分に整備できていなかった」と回答しているそうです。

前回のコラムで、コンタクトセンターにおける生成AIの業務活用についてのいくつかのユースケースをご紹介しましたが、ケースによっては生成AIにインプットするデータの精度が非常に重要になります。その1つが、顧客からの問い合わせの真意/用件をオペレーターが正しく捉えるための補助機能として生成AIを活用するユースケースです。

今回は、生成AI技術を「お問い合わせ応対業務におけるオペレーターのアシスト」に活用する際に効果を最大化するための「ナレッジデータの重要性」についてご紹介します。

[オペレーターアシストにおける生成AIを活用イメージ]





なぜ「ナレッジデータ」が重要なのか?生成AIが次の質問候補を導き出すまでの処理フローで解説

お客さまからのお問い合わせが入った際に、ご用件を理解し、適切なご案内をするためにオペレーターが次に聞くべきことを生成AIがサポートする場合(以下、オペレーターアシスト)、以下のようなフローで質問候補を導き出していきます。

まず、お問い合わせ内容を音声認識等の技術を活用してテキスト化し、テキスト化された情報をもとに、事前処理のフェーズで、問い合わせの回答の可能性が高いFAQ等のナレッジ一覧を取得します。その情報とお問い合わせ内容をもとに生成AIに指示を出すためのプロンプトを作成し、生成AIはそのプロンプト内容に従って、「次に質問すべき事」を自動生成していきます。

ここで、重要になるのが「事前処理」です。

■ 生成AIの回答精度を高める技術「RAG」と「ナレッジデータ」

生成AIの回答精度を高める技術に「RAG(Retrieval-augmented generation)」があります。RAGは、膨大な情報から関連する情報を抽出し、それらをプロンプト内に含めてLLMに選ばせる手法です。

RAGを利用してLLMを活用するためには、インプットするための外部情報の検索を組み合わせます。特定の質問に対して最も関連性の高い回答を得られる他、事実に基づかない情報を生成するハルシネーションを抑制できるというメリットがあります。

RAGは、プロンプトに含める情報次第で、さまざまなシーンで活用できるため、特定の業務に特化したアプリケーションなどで多く採用されています。今回のオペレーターアシストのケースでも、この技術を活用して「次に聞くべき質問」を生成AIに導き出すことができます。

ただし、RAGの回答精度は検索のフェーズで抽出するデータの精度と内容が非常に重要になります。オペレーターアシストで活用する場合も、センターに蓄積された「ナレッジデータ」からいかに関連性の高い情報を厳選してプロンプトに含められるかがポイントになります。

■ さらに精度をあげるための鍵は「フューショット学習」

さらに、ベテランオペレーターの思考パターンに近づける施策として、RAGを使った「フューショット学習」を活用することもポイントです。

通常、オペレーターは顧客からの問い合わせに対して、過去の経験値をもとに回答候補を導き出していきます。例えば、「○○○○」という問い合わせでは顧客が「xxxできない」という体験をしていると、「A」が原因の可能性が高い、それならば「a」をご案内しようという具合です。

経験の豊富なベテランオペレーターはこの選択肢が多いため、さまざまなパターンを想定して次に何を確認すればいいのかを導き出すことができます。一方で、経験の浅い新人オペレーターの場合はこのような対応が難しいため、的外れな質問をしてしまったり、回答をご案内するのに時間がかかってしまったりということにつながっていきます。

フューショット学習は、あるタスクに対する複数の例文を挙げることで、その例文を参考に回答を生成する技術です。
フューショット学習の技術を利用すると、プロンプトに含まれる複数の「考えられる[質問と回答]」のパターンを前提に「次に聞くべき質問」を生成AIが作成します。ベテランオペレーターが顧客からの問い合わせ内容からいくつかの可能性を頭に浮かべ、次に質問することを導き出していくときと同じような要領で生成AIが次の質問を生成できるようになります。

ベテランオペレーターの顧客対応を生成AIに再現させるためには、RAGの検索フェーズで「ベテランのナレッジ」をも含めて検索させること、そしてRAGを使ったフューショット学習技術を活用し同じ思考パターンで次の質問を生成AIに導き出させること、この2つのポイントを押さえておくことが重要になります。

コンタクトセンター業務での生成AIの利活用はS&Iにご相談ください!

いかがでしたか?
「事前処理」の段階でインプットさせるデータは、生成AIの回答精度にも影響を与える重要な要素です。これらは一般的にサービス側に組み込まれる処理となります。そのため、サービスを選定する際は、どのようなデータをどのようなプロセスで処理をするのか、きちんと把握しておくことで、生成AIの活用効果を最大化できるでしょう。

応対業務でオペレーターが問題解決に向けて次に何を確認すればいいのかを生成AIにアシストさせることで、新人オペレーターの即戦力化や応対品質の平準化が期待できます。

しかし、生成AIは単なるツールの1つであり、人のサポートを補完するための存在です。生成AIが導き出した回答を利用する際に、精度や正しさの観点で「人」がチェックし、改善していくというプロセスは不可欠です。

S&Iでは、こうした生成AIの特性も踏まえて、コンタクトセンターの応対業務での活用を積極的に支援しています。生成AIとやり取りするデータの加工や処理、セキュリティ対策を考慮したサービス設計など、お客さまの業務や運用フローに応じたご提案が可能です。ご興味のある方は、ぜひ、S&Iまでご相談ください。


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