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コールセンターはクラウドに移行すべきか?クラウドPBXの特徴や注意点を解説

コンタクトセンターの在宅化やSNSやチャットなどのマルチチャネル化、音声テキスト化によるCX向上などへの需要の高まりを背景に、クラウドPBXの導入が注目されています。

ネットに溢れる情報からは、さも相当数のコールセンターがクラウドPBXを導入しているようにも見えるので、クラウドへの移行を急がなければ…と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、実態としては、約80%超のコールセンターがオンプレミスで利用していると言われており、思っているほどPBXのクラウド化は進んでいないのが現状です。

クラウドPBXには、さまざまなメリットがある一方で、デメリットもあります。
今回は、コールセンターのクラウド化を検討している方に向けて、本当にクラウドPBXへ移行すべきか、オンプレミスのままの方が良いのか、さまざまなお客さまにコンタクトセンター基盤を構築してきたSIerだからこそ分かる、クラウドPBXへ移行する際に考慮すべきポイントを解説します。

オンプレPBXとの違いとは?

オンプレPBXとクラウドPBXの基本的な違いは、オンプレPBXでは自社内にPBXを設置し、社内ネットワークを介して通話をするのに対し、クラウドPBXではインターネット経由でPBX機能が提供され、どこからでも通話できるようになる点です。複数拠点を活用したコールセンター運営や在宅オペレーターなどの働き方も可能になります。

コスト面でも違いがあります。
オンプレPBXに比べて、クラウドPBXは初期コストが安い、導入期間が短いなどの特長があります。特に、拡張性については大きな違いがあります。オンプレPBXの場合、拡張には追加機器や工事が必要になりますが、クラウドPBXの場合、PCとインターネット環境さえあれば使えるため、容易に席数を増やすことができます。キャンペーンや新製品の発売など一時的に受電数が増える場合の適応力はクラウドPBXのメリットと言えるでしょう。

もう1つの大きな違いは、カスタマイズのしやすさや他システムとの連携など機能面での違いが挙げられます。オンプレPBXの場合、標準機能にない場合は個別開発することで対応できるため、システム側を業務フローに合わせられます。一方、クラウドPBXはカスタマイズ性が限られるため、システムの仕様に業務フローを適用させる必要があります。また、他システムとの連携可否についてはクラウドPBXの仕様によって異なるため、事前に確認が必要になります。
比較項目 オンプレミス クラウド
初期費用 ×:高額 ○:安価
導入期間 ×:長期 ○:短期
ランニングコスト ×:高額 ○:安価
変更作業の内製化 △:可能だが、専門知識が必要になるため、難易度が高い。 ○:GUIが用意されており、専門知識が無くても容易に対応可能。
セキュリティ(インターネットやVPN環境の有無) ○:高い ×:低い
カスタマイズ性 ○:高い 。標準機能で対応できない場合は、個別開発により対応可能。ただし、コスト高になる可能性も大。 ×:低い
他システムとの連携 ○:さまざまなI/Fが利用可能。 △:RestAPIが主体。連携できるシステムが限られる。
定期的なシステムの更新にかかる負担 ×:ライフサイクルに併せて検討が必須。 ○:考慮する必要がないため、負担は少ない。
在宅ワークへの対応 △:難しい ○:容易
端末(スマホ、PC[VDI/アプリ/ブラウザ]、固定電話)との互換性 ×:少ない ○:多い

クラウドPBXへの移行時に見落としがちなポイント

コールセンターの規模も小さいしカスタマイズも不要、運用面でも負担が減りそうだから…ということでクラウドPBXに舵を切るお客さまもいらっしゃるのですが、注意が必要なケースがあります。コールセンター専用のPBXを導入するほどの規模ではない場合や、事務部門とカスタマーサポート部門が共通システムを使っている場合など、コールセンターとオフィス電話を統合管理しているケースです。

クラウドPBXでは、オフィス電話の代表的な機能の代理応答やコールパーク、順次鳴動などの機能を搭載しているものがあまり多くありません。クラウドPBXへの移行により、オフィス電話の運用が変わる可能性があることも考慮が必要です。また、FAXや構内放送設備と連携する場合にはSIP変換機器が必須になります。構築の難易度がかなり上がるため、一部機能はオンプレPBXを使い続け、クラウドPBXとのハイブリッド運用になることもあります。

この他、オンプレPBXからクラウドPBXへ移行する際に見落とされがちなポイントは以下の通りです。これらの違いを抑えておくことで、導入後のトラブルを避け、最適な移行プランで構築できるでしょう。
比較項目 オンプレミス クラウド
規模の目安 小〜大規模(10〜数万席) 小〜大規模(10〜数万席)
※ただし、ベンダーによっては大規模に対応できない場合もある
事務系PBX機能(代理応答やコールパーク、順次鳴動、夜間切替え機能などの機能) ○:多い ×:少ない
レガシー機器との接続(アナログ端末[受付電話機・FAX]やドア開錠/開閉、放送設備など) ○:容易 ×:SIP変換機器が必須となるため、難易度が高い。
音声品質 ○:クラスA(MOS値4.0以上)程度 △:クラスB(MOS値3.1~3.9)程度)
ネットワーク要件(セキュリティーや帯域の確保、FWのallowlist検討要否など) ○:イントラネット接続前提のため、検討事項は少ない。 △:DMZ領域の検討や帯域確保が必要。
電話回線との互換性 ○:アナログ〜SIPまで網羅。 △:デジタル/SIPのみ対応。
レポート拡張性 ○:RAWデータの解析が可能。 △:RAWデータの取得が困難。
システムアップデートの頻度 ×:多い。バグフィクス、セキュリティーアップデートなど定期的なアップデートが必要。 ○:考慮不要。
通話録音 ○:全通話録音が可能。 △:内線通話の録音に対応していない可能性あり。
通話録音データの保存期間 ○:無期限。ただし、ストレージやDBMの容量次第。 △:1年〜5年程度。契約するサービスのプラン次第。

クラウドPBXかオンプレPBXか?運用にあった提供形態を選ぼう。

オンプレPBXとクラウドPBX、どちらが向いているのか選択する際のポイントは次の通りです。自社のコールセンターでは、いずれの要件を最も重視しているのか整理しておきましょう。

[オンプレミス型]
・物理的な構成を含むネットワークセキュリティを重視
・音声品質を重視
・全通話録音が必須
・既存レガシー資産との連携が必須
・事務系の電話機能が必須
・複雑なコールレポート(KPI)が必須(もしくは外部連携が必須)
・連携機器がAPIに対応していない

[クラウド型]
・在宅化コールセンターを容易に導入したい
・システム運営を内製化したい
・システムのライフサイクルに依存したくない
・利用ライセンス数を抑えたい
・常に新しい機能を利用したい(いつUIが変わっても良い)
・電話回線もクラウド化したい
・電話以外のチャネル(SMSやボット、AI、WFM等)を容易に導入したい


クラウドPBXは、ベンダーごとに長所・短所、できる・できないがあるものの、機能が順次追加されるなど、顧客要望やテクノロジーの流行で進化していくことが最大の売りとも言えるでしょう。いつのまにか諦めていた機能が使えるようになっているということもあります。クラウドPBXでは、移行後も継続的に運用を最適化していくことで、より効果的な活用を目指しましょう。

S&Iでは、オンプレミスもクラウドPBXの構築もご提案しています。クラウドPBXに移行すべきか、このままオンプレミスのままにすべきか、悩んでいる場合はぜひご相談ください。これまでの経験をもとに最適な構成をご提案いたします!

S&Iエンジニアからの一言!

今回は、オンプレミスとクラウドPBXの違いをご紹介しましたが、その他にも、ベンダー独自、Sler独自のクラウド型PBXもあります。この場合、一般的なクラウドサービスよりもある程度カスタマイズの自由度が高くなる一面、他のサービスへのデータ移行について約款で制約されているケースもあるため注意が必要です。次のシステム移行の際に、移行したくてもできない…なんてこともあり得ます。データの扱いなどにも注意して選定してください。

堀井 祐司:
AVAYAやGenesys Cloud CXなど、さまざまな業界・規模のお客さまを対象に、ニーズに応じたコンタクトセンターの構築に多く携わる。最近では、よりコンタクトセンターの業務領域まで踏み込み、CX・EXの実現に向けて、インフラ構築から業務課題を解決するサービスまで幅広い提案で、コンタクトセンター のDXを推進する。

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