第1回目では、シンクライアントの実行方式とその特徴、専用端末について解説してきた。
では、どの方式を選択すればよいのだろうか?
それは、『何のためにシンクライアントを導入するのか?』によって異なる。
今回は、どのシンクライアントを選べばよいのか、その選定方法やポイントを解説する。実際にシステムを導入する上で、最適な実行方式を選択するにはどのような基準で選定すれば良いのか見ていこう。
その目的は、大きく以下の3つに分類できる。
目的によって実行方式や製品の選定、導入・運用設計などが決まる。私がこれまでみてきたいくつかの事例では、目的が明確になっていなかったために、正確な投資対効果(ROI)を把握できず、導入コストを下げることだけに注力してしまい、結果的に中途半端なシステムになってしまうケースもあった。導入目的の明確化は、シンクライアント導入を成功させる上で、非常に重要な要素と言える。
導入目的や使用するアプリケーションなどの棚卸作業が完了して初めて、どの実行方式を採用するかの検討段階に入る。シンクライアントの実行方式は、大きく分けて以下の4種類だ。
ネットブート型 | ブレードPC型 | プレゼンテーション型 | 仮想PC型(VDI) |
---|---|---|---|
パソコン教室のような、全員が同じ環境で操作する場合 | CADのような高グラフィック処理を必要とするアプリケーションを使う場合 | 使用するアプリケーションがある程度決まっていて、ユーザーに自由にインストールさせる必要がない場合(※1) | ユーザーごとに使用するアプリケーションが異なり、規定内であれば自由にインストールさせてもよい場合 |
XenApp | Remote Desktop Service | SDC Hybrid Connector | Horizon View | |
---|---|---|---|---|
メーカー | Citrix | Microsoft | S&I | VMware |
公開アプリケーション | 対応 | 対応 (RemoteApp) |
ー | 対応 |
ロードバランス方式 | サーバ負荷ベース | ラウンドロビン セッション数 |
サーバ負荷ベース | ー |
クライアントプラットフォーム |
|
|
Windows OS |
|
リモートアクセス | Secure Gateway | TS Gateway※1 | ー | Security Server |
接続プロトコル | ICA/RDP | RDP | RDP | PCoIP/RDP |
印刷補助機能 | Universal Print Driver(XPS/EMF) | Universal Print Driver(XPS) | Universal Print Driver(XPS) | ThinPrint |
運用・柔軟性 | ◎ | △ | △ | ◯ |
ライセンスコスト | 高価 | 安価 | 安価 | 高価 |
※1 接続後はRDPになるため、Firewall側でRDPポートの解放が必要
仮想PC型の選定ポイントは、ユーザーを仮想デスクトップに振り分けるコネクションブローカーと仮想デスクトップを実行する仮想化製品の2つだ。
仮想化製品は、コネクションブローカーと同じメーカーのものを選定する場合が多いので、今回はコネクションブローカーの選定ポイントを中心に解説する。
仮想PC型の管理には、基本的にコネクションブローカーの管理ツールを利用するので、コネクションブローカーは仮想PC型を選定する中で最も重要な要素だ。仮想化製品と連携してサービスを提供するものや、コネクションブローカーのライセンス内で限定的に仮想化製品の機能を利用できるものがある。
対応するクライアントプラットフォームやリモートアクセス、接続プロトコルなどは、ある程度はプレゼンテーション型と同様に考えて問題ない。大きく違う点は、仮想環境上に大量の仮想デスクトップを作成し管理していく作業が発生する点だ。
ユーザー数が小規模の場合は問題ないが、ユーザー数が大規模になってくると、数百台から数千台の仮想マシンとそこで稼働するOSを管理しなければならなくなる。大規模環境で仮想PC型を採用する場合は、仮想マシンのプロビジョニング管理機能を有しているコネクションブローカー製品を選択する必要がある。プロビジョニングの機能は、製品ごとに差異があるため、規模や運用方法を考慮して、より適した製品を選定する必要がある。今回は、高速プロビジョニング機能を有している、Ctrix社のXenDesktopと、VMware社のHorizon Viewを紹介する。
VMware Viewには、View Composerという機能が装備されている。View Composerでは、マスターとなる仮想マシンの仮想HDDを実体とし、その仮想HDDのアドレス情報を参照させて、仮想HDDを持つ仮想マシンを展開していく。これは、リンククローンと呼ばれる高速プロビジョニングだ。
展開された仮想マシンの仮想HDDは、マスターの仮想HDDのポインター情報を参照しているため、すべての仮想マシンが同じ情報を読み取り専用でアクセスすることになるが、各仮想マシンは、デルタディスクと呼ばれる差分情報を保持しているため、マスターのHDD情報と差分情報をマージさせてそれぞれの仮想マシンのHDD状況を実現するため、ディスク容量の削減にもつながる。
マスターイメージを変更する場合は、Recomposeと呼ばれる処理で、新しいポインター情報を格納した仮想HDDと入れ替える作業を行い、新しい状態に変更する。
Citrix社のXenDesktopでは、View Composerのようにリンククローンを実現するMCS(Machine Creation Service)と、ストリーミング技術を利用してネットワーク経由でOSやソフトウェアをオンデマンド配信するPVS(Provisioning Service)を選択できる。
PVSでは、PVSサーバに格納されているディスクイメージを複数の端末で共有する仕組みのため、リンククローンよりもさらにディスク容量と管理工数を削減できる。さらに、PVSに格納されている情報は、ファイル単位で必要なときに読み込まれるため、PVSサーバのメモリにキャッシュすることでストレージへのアクセス量が減り、ストレージへのIO要求が下がる。この2つの理由により、より大規模な環境に適していると言われている。
XenDesktop | Horizon View | Microsoft VDI | RHEV | |
---|---|---|---|---|
メーカー | Citrix | VMware | Microsoft | Red Hat |
高速プロビジョニング | Machine Creation Service Provisioning Service |
View Composer | ー | ー |
デスクトッププール | 対応 | 対応 | 対応 | 対応 |
対応仮想化製品 | VMware vSphere Citrix Xen Server Microsoft Hyper-V |
VMwware vSphere | Microsoft Hyper-V | RHEV-H (KVM) |
クライアントプラットフォーム |
|
|
|
|
リモートアクセス | Secure Gateway | Security Server | TS-Gateway | ー |
接続プロトコル | ICA/RDP | PCoIP/RDP | RDP | SPICE/RDP |
印刷補助機能 | Universal Print Driver(XPS/EMF) | ThinPrint | Universal Print Driver(XPS) | ー |
運用・柔軟性 | ◎ | ◎ | △ | ◯ |
ライセンスコスト | 高価 | 高価 | 安価 | 安価 |
※ CitrixiのXenDesktopは、XenServerだけではなく、他社製品もサポートしているため、サーバーの仮想環境にVMwareのvSphereを利用している企業が運用効率や実績を重視して、XenDesktop+vSphereの組み合わせを採用するケースある。