誰もが気軽に文化や芸術に触れられる機会を増やし、文化や芸術の振興を積極的に図る。
約70年ぶりの博物館法の改正で、博物館資料のデジタル・アーカイブ化が追加されるなど、文化芸術分野でもDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が注目されています。
特に、新型コロナウィルスの感染拡大により、入場制限や休館を余儀なくされたことをキッカケに、オンラインコンテンツの拡充に積極的に取り組む文化施設も非常に増えています。
こうした中、東京都では、誰もが、いつでも、どこでも芸術文化を楽しめる環境を実現する「TOKYO スマート・カルチャー・プロジェクト」を推進。都立文化施設における情報通信基盤を整備し、データベース拡充などによる収蔵品の利活用、デジタル技術を活用した新しい鑑賞体験の提供を目指しています。
S&Iでは、その取り組みの一環として、公益財団法人東京都歴史文化財団が管理運営する東京都庭園美術館様の施設内における無線LAN環境の整備を支援させていただきました。
[東京庭園美術館様 本館]
東京都庭園美術館様は、1933年に朝香宮邸として建てられたアール・デコ様式の建物を用いた美術館として1983年に開館、2023年10月に開館40周年を迎える都立美術館です。
本館や正門、茶室などが国の重要文化財に指定されており、所有する美術作品はもちろん、歴史的建造物と緑豊かな庭園も同時に楽しめる点が特徴です。
今回のプロジェクトでは、東京都庭園美術館様が所有されるコレクションや展覧会・公演等をデジタル化し、オンライン上で公開するとともに、最先端技術を活用した新たな芸術文化の鑑賞体験を提供するため、本館および新館などの主要エリアへ無線LAN環境を新たに整備。特に、ルーター、ファイアウォール、DHCPサーバーは1機器に統合することで、導入機器を削減するとともに、障害ポイントやリスクを最小限に抑えられるシンプルなネットワーク構成に設計することがポイントでした。そして、キックオフから3か月という短い期間で完了させるため、十分に仕様を満たし、かつ短納期に対応できるH3C社製のネットワーク機器を採用することとなりました。
[東京都庭園美術館様 ネットワーク環境イメージ]
プロジェクトとしては非常にシンプルな構成で実現できると思われましたが、実際に現地調査を行うと、重厚に作られた本館は躯体のコンクリートが厚いため、電波遮断性が高く、アクセスポイントの設置箇所を工夫しなければならないことが分かりました。
また、限られたスペースにPoEスイッチなどのネットワーク機器の収容場所を確保するため、ネットワークラックやHUBBOXなどを新たに設置する必要がありましたが、国の重要文化財に指定されている本館は新規の工事は原則できません。建物へ固定できない場合は、壁掛け型ではなく据え置き型にするなど、建物の条件に応じた設計を行うとともに、景観を損なわないよう設置場所も考慮する必要がありました。
S&Iでは、現地調査を踏まえ、天井裏および室内におけるアクセスポイントの設置箇所を定義、主要エリア内ではどこからでも快適に無線LAN環境に接続できるように設計、構築いたしました。
そして、今回最も苦労したのが実際の配線作業でした。本館の天井裏などは非常に狭く、かがんでやっと入れる広さ。一方で、建物の柱や梁にむやみに触れて傷つけるようなことがあってはなりません。
作業自体は難しくないものの、建物を絶対に傷つけないように、いつも以上に丁寧な作業を心がけたプロジェクトになりました。
[東京都庭園美術館様 本館の天井裏の様子]
今回のプロジェクトでは、施設内に設置したネットワーク機器の一元管理と運用の効率化を図るために、H3Cが無償で提供するクラウド統合管理ツール「Cloudnet」を導入しています。
Cloudnetは、他拠点に展開されるWAN/LANネットワークをクラウドで管理でき、設定情報の一元管理や機器故障時もゼロタッチ交換が可能なソリューションです。
アクセスポイントを制御する無線LANコントローラーは、Cloudnetで制御するため、建物内に設置する必要がありません。また、施設外からもアクセスできるため、一元管理とともにロケーションフリーの効率的な運用管理が可能になります。
Cloudnetにより、東京都庭園美術館様のご担当者様に加え、リモートでS&IのSEも状況を把握できるようにしています。万が一障害が発生した際は迅速な対応が可能になる他、機器の故障時にはH3Cが提供するサポート窓口にスムーズに連携するとともに、技術的な問題はS&Iにてサポートする体制を整えています。
S&Iでは、ネットワーク環境の提供だけではなく、安心してご利用いただくための運用支援までワンストップで提供しています。今後も、東京都庭園美術館様におけるデジタル化推進を支える強力な基盤の提供を継続してまいります。
※本記事は、2023年9月時点の情報を基に掲載しています。
1933年に朝香宮邸として建てられ、アール・デコ様式の建物の空間を活かし、緑豊かな庭園が調和した美術館として1983年に開館。「歴史的建造物」「美術作品の鑑賞」「緑豊かな庭園」を同時に楽しめる美術館として、ユニークな創造発信の場となることを目指しています。