医療分野でも、デジタル化を通じたサービスの効率化・品質向上により、最適な医療を実現する取り組みが進んでいます。医療法人 札幌ハートセンター(以下、札幌ハートセンター)でも、2018年に本院のネットワーク環境を最適化するとともに、電子カルテや医療映像なども安全かつ安心して制御できるデジタルインフラを構築するなど、ICTやAI/IoTなどの先進技術を活用して医療の効率化や質の向上を図る新しい医療の形態である「スマート医療」を推進しています。
また、北海道内の医療機関との連携や情報発信など、地域医療にも積極的に取り組んでおり、厚別区の新札幌心臓血管クリニックに続く2番目の分院として、2024年6月に札幌心臓血管クリニックとよひらをオープンしました。今回、その新たなクリニックの院内ネットワーク環境をH3C製品の販売パートナーでもあるエクストリーク株式会社(以下、エクストリーク)にて構築されました。
札幌ハートセンターは、2008年に創設した全国有数の循環器専門の医療機関で、心臓カテーテルを含む心臓疾患治療件数は国内トップクラスにあります。
今回新たにオープンした札幌心臓血管クリニックとよひらは、新札幌心臓血管クリニックと同様、外来と検査を主体としており、手術が必要な患者様は本院で対応する体制をとっています。そのため、どの施設でも同じように患者のカルテや検査結果を閲覧できるようにしておく必要がありました。
一方で、電子カルテや検査結果などの情報は個人情報に該当するため、セキュリティにも十分な配慮が必要になります。札幌ハートセンターではセキュリティを非常に重視しており、院内のローカルネットワークのみに接続するオンプレミス型の電子カルテを利用しています。電子カルテの設備自体はデータセンター内に構築し、各クリニックからは本院を通じてデータセンターへVPN接続することで、どこの施設からもカルテのデータにアクセスできる環境を実現しています。
札幌心臓血管クリニックとよひらのオープンに伴い、エクストリークが構築したネットワーク環境は、①電子カルテ用のネットワーク、②医療用画像を管理するPACS用のネットワーク、③事務用の端末やプリンターなど用のネットワーク、④患者向けゲストWi-Fiの4つ。
セキュリティの確保が必要な電子カルテ端末用の無線LAN環境は、本院に接続し、さらにその先のデータセンターに接続しなければならないため、インターネットに接続できる事務系端末用および患者向けのゲストWi-Fiとは完全に分けて構築しています。また、PACSに関しては、レントゲン画像などを定期的にアップロードするため、大量のデータを扱っても診察に影響を及ぼさないよう、電子カルテ用のネットワーク環境とは分離させています。
札幌心臓血管クリニックとよひらのネットワーク環境を構築したエクストリークは、1991年に設立されたLAN配線工事を主力事業とする株式会社エヌシーアイを前身とし、ネットワーク構築、LAN工事、カメラや入退出管理を含む物理セキュリティまで、非常に広い範囲をカバーできるワンストップソリューションを強みとしています。今回、本プロジェクトを担当したエクストリークの村山拓也さんにお話を伺いました。
― 今回のプロジェクトで重要視された点を教えてください。
札幌ハートセンター様は、開業からわずか3年で全国5本の指に入る心臓カテーテルの専門施設に成長させるなど、非常にスピーディーな事業展開を進められています。今回の札幌心臓血管クリニックとよひらも、開院までわずか3か月という短期間でネットワーク環境を構築することになりました。
ネットワークはその施設の根幹になるものです。今や多くの医療関連機器がネットワークに接続されており、ネットワーク環境が出来上がらないとその他の機器の導入作業を進めることができません。一方で、クリニックのお客さまではよくあるのですが、CTやMRI、電子カルテなど、機器ごとにベンダーが分かれているため、関わるベンダーが多いのも特徴です。今回のプロジェクトでも、電子カルテやPACS、マイナンバー関連のシステム、事務系の端末など、7〜8社のベンダーが関わっており、各ベンダーの作業を止めずに、プロジェクトを進められるかが肝でした。
当社では、これまでも医療機関のお客さまを多く担当しており、どのようなベンダーさんとの調整が必要か、どのような作業が発生するのかなど、ある程度ノウハウを備えていました。さらに、札幌ハートセンターのご担当者様とも密に連携しながら想定される作業を洗い出し、マイルストーンを設定したことで、無事にサービスインを迎えられたのではないかと思います。
また、H3Cの製品が短納期に対応していたことも成功の一助でした。S&Iさんとも発注から納品までのスケジュールをこまめに連携しながら進められたのもよかったです。
― H3C製品が選定された理由を教えてください。
札幌ハートセンター様では本院のITインフラもH3C製品を採用していましたので、今回も実績のあるH3C製品が選定されました。ただ、これまではネットワーク構築を本業としていない業者さんが担当されていたため、札幌心臓血管クリニックとよひらから本格的に当社で担当させていただくことになりました。
H3Cの製品については、機能と価格のバランスにメリットを感じています。また、導入後には、他メーカーの機器でも初期不良などの故障が一定数発生するのですが、H3Cの製品は故障率がとても低い印象です。故障したという連絡がほとんどありません。
― 医療機関だからこそ、意識していることや配慮されていることはありますか?
ネットワークの遅延は診察の進行に支障を及ぼす可能性があるため、細心の注意を払っています。例えば、ネットワークが遅くて、電子カルテの参照に時間がかかってしまうと、その分だけ、患者さんを待たせることになってしまいます。
医療機関ではレントゲン画像などの大量の画像データのやり取りも多いため、一般企業のケースと比較しても、操作感として遅い印象を受けることも少なくありません。また、患者数の増加に伴い、段階的にサーバー数を増やしていった結果、ITインフラが煩雑になってしまい、ネットワークが遅くなってしまったというケースもあります。
システムの問題なのか、ネットワークの問題なのか、きちんと問題を切り分け、常に最適化されたネットワーク環境を提供することが大切だと考えています。
そして、医療機関では、ネットワークの切断が人の命に関わることもあるため、万全を期して対応しています。冗長構成は必須だと思います。ただ、予算との兼ね合いで完璧な冗長構成を組めない場合もあります。そのような場合は、万が一ネットワークが切れてしまった場合の緊急時のフローも事前にお客さまと意識合わせして定義することで、備えられるように徹底しています。
― 今後の取り組みや展望を教えてください。
現在は、本院を経由してデータセンターへアクセスする構成になっていますが、今後の札幌ハートセンター様の事業展開の状況によっては、現在の構成では、本院とデータセンター間の通信が集中してしまい帯域を圧迫してしまう可能性もあります。今後の展開に応じて、各クリニックとデータセンターを直接接続するなどのご提案なども進めていきたいと考えています。医療機関は蓄電池などの予備の電気設備を導入されているので、停電が発生したからといってネットワークが突然切断されることはありません。ですが、クリニックとデータセンターを直接繋げておくことで、より確実で安定した環境を築けると思います。
今後も、ご担当者様と密にコミュニケーションを取りながら、何かあれば気軽にご相談いただけるよう、迅速かつ丁寧な対応で、万全のサポートを提供していきたいと考えています。
そして、札幌ハートセンター様のスピード感にお応えできるよう、H3Cの一次代理店であるS&Iさんともしっかり連携していきたいですね。今回のようなタイトなスケジュールの場合も確実に納品できるように進めていかなければならないため、協力しながらプロジェクトを推進できるよう、スムーズな情報共有を心がけています。
また、クリニックなどの場合、一人でシステム全般を管理、運用されているという担当者の方も少なくありません。当社では、物理設計や工事から対応できますので、ネットワーク周りの運用支援を1本化することも可能です。少しでも担当者の方の運用負担を軽減するとともに、お客さまに安心感を持ってご利用いただけるよう、努めていきたいと考えています。
エクストリーク株式会社
本社:東京都港区芝4-9-4 芝浜ビル5F
設立:2002年8月1日
URL:https://extreak.co.jp
事業概要:サーバーやネットワークなどのITインフラ構築からセキュリティ、保守サポートまで、お客さまに寄り添うワンストップソリューションを提供。
医療法人 札幌ハートセンターの2番目の分院として、豊平区にて、本院と同様に心臓や血管の病気の専門的な診断/治療を提供。札幌全域をカバーするなど、地域医療の活性化にも積極的に取り組む。