キリン株式会社では、業務の利便性を重視して、業務で使うPCの持ち出しを許可していました。同時に、酒類事業を営むが故に『アルコールに起因する事故を絶対に起こしてはならない』というコーポレート・ガバナンスが徹底されており、PCを持ち出すことで、PC紛失とともに重要情報を紛失するというリスクを回避するために、モバイルワークにブレーキがかかるという現実に直面していました。
PCのハードウェアそのものの老朽化と、Windows X P/Office 2003のサポート終了を機にセキュリティ強化と利便性向上の両立を目指し、あらためて社員が『安心して持ち出せるコンピュータ』を実現するため、仮想デスクトップシステムに移行しました。そして、シンクライアント端末としてThinBoot ZEROノートタイプを導入しました。
2013年、キリン株式会社では、長年にわたり使い続けてきた業務PCの老朽化が進み、ハードウェアの故障率が高くなっていた。特にバッテリーが著しく劣化したノートPCでは、常にACアダプターを持ち歩かないと使えないレベルにまで至っていた。また、ソフトウェアにおいてもWindows XP/ Office2003のサポート切れを間近に控え、業務に使用していたOffice 2003が、社外とファイルのやりとりの際にバージョン違いによる互換性で困る機会が増えていたという。さらに標準ブラウザだったInternet Explorer 6においても、表示ができないサイトも増えており、マルウェア感染などセキュリティ面でも不安要素になっていた。
もともとPCの持ち出しを許可していた同社ではあったが、これは重要情報を持ち出すことに等しく、PCの紛失による情報漏えいの危惧があった。キリンでは『飲酒する場合はPCの持ち出しをしてはならない』というルールが定められていた。このルールは、アルコールを販売する会社の社員が、アルコールが原因で事件・事故を起こしてはならないという考えに基づく。しかし、お客様先である料飲店などを訪問する営業は、アルコールを飲む機会が多く、結果的に外出においてPCを持ち出さなくなり、残務があれば帰社することになる。外出して都度、帰社するというのは、都市部のオフィスならまだしも、郊外や地方勤務の社員における非効率性は無視できないレベルだった。
キリンのIT基盤を統轄するのは、キリンビジネスシステム株式会社だ。セキュリティの強化と利便性の向上の両立を目指していた同社は、Windows XPからWindows 7に移行するタイミングこそ、仮想デスクトップ環境(VDI)に移行する好機だと捉えていた。データを手元に保管できないシンクライアント端末なら、社員が安心して端末を持ち出せるようになる。ネットワークにさえつながれば、場所を問わず社内と同じデスクトップが利用できるようになり、ひいてはビジネスのモビリティ向上につながると考えたのだ。
VDIの導入を決定した2013年1月、キリン株式会社は、仮想デスクトップ上で稼働させる約14,000台のPCの選定に入った。オフィス内だけではなく外出先からもアクセスする可能性のある営業職の社員が使用する約4,000台、オフィス・工場など社内で働く社員が使用する約9,000台、さらに特定のアプリケーションを使用するための共有PC約1,000台が対象だ。
営業はもちろん、社内で働く社員も、会議室やフリースペースでPCを使うため、持ち運びに便利なサイズと重さであることが重要であった。キリンが提示した要件は、VGAポートなど必要なインターフェイスを備えつつ、コンパクトで軽量であることだ。複数メーカーのシンクライアント端末を並べて、エンドユーザーとなる社員にも実機を触れてもらいながら意見を求めた。キーボードの感触から画面サイズ、筐体自体のサイズや重量などさまざまな評価が寄せられ、最終的に価格性能比が優れていたエス・アンド・アイが提供するレノボ社製シンクライアント端末ThinBoot ZEROが選ばれた。
ThinBoot ZEROには、タブレットタイプ、ノートタイプからデスクトップタイプまで、基本ラインアップは存在しているが、基本的にはレノボ社が製造するすべてのPCをシンクライアント化して提供できるのが特長だ。キリンの仮想デスクトップ環境の導入に伴う社員の端末リプレイスにおいても、すべての端末を新規で購入するのではなく、比較的新しいモデルについては、既存PCをシンクライアント端末化して提供している。端末へのスペック要求が少ないシンクライアント端末では、既存の資産を有効活用することで、リプレイスにかかる初期コストを大幅に削減することもできるという好例だ。
最終的にThinkPad X230i をベースにした約10,000台のThinBoot ZEROを新規に導入し、既存の約3,100台のPCについては、筐体はそのままにシンクライアント端末化が行われた。
2014年4月、東京都中野区にあるキリングループ本社を皮切りに、新たなVDI環境に接続するシンクライアント専用端末としてThinBoot ZEROの配布が始まった。そして同年9月、国内47社約200拠点の社員に対し、約14,000台の展開が完了した。
台数の多いシンクライアント環境では、端末管理ツールは必要不可欠になる。キリンでは、1万台を超える端末の管理に、エス・アンド・アイがThinBoot ZERO専用に提供している『Secured Desktop Cloud Management Server』を活用している。ソフトウェアアップデートなどの際にも、端末が社内ネットワークに接続したタイミングで通知され、ユーザー自身が簡単な操作を行うだけでアップデータを実行できるため、システム運用者の負担を大幅に軽減できる。導入規模にあわせて、スピードやデータ容量の観点からキリンでは、データベースをSQL Server CompactからSQL Serverへの変更を行っている。10,000台を超える端末のログ等がすべて保存されるため、データ容量が膨らむことを想定しての変更だ。環境やニーズに応じてツールのカスタマイズが可能な点も、ThinBoot ZEROが採用されたポイントと言えるだろう。
シンクライアントの導入により「起動・終了時間が圧倒的に短くなった」とはユーザーの声。旧PCでは起動するだけで6分もかかっていたモデルがあるが、ThinBoot ZEROでは45秒でログイン画面がでてくる。毎朝ログインする約14,000人分の短縮された時間をコストに換算すると、その効果は絶大だ。
「起動・終了時間だけではありません。セキュリティパッチの適用、バックアップにかかる時間など、ユーザーがシステムに費やすコストは、VDI環境に移行したことで確実に減っています。PCがトラブルを起こすと、かつては代替PCへのデータ入れ替えに半日はかかっていましたが、今は端末交換だけであっという間に業務に戻れるようになりました」と、門田氏はユーザーのシステムコストを減らすことが当初からの狙いだったと語る。端末がシンクライアントになり、ハードウェアとデータの分離が実現できたことが功を奏しているとも言える。
さらに「VDI環境に移行して、当たり前のことなのですが、アンチウイルスソフトのシグニチャ適用率も100%になった。前システムと比較して、セキュリティリスクは下がっている」と金岡氏は語る。
セキュリティ強化と利便性向上は、言わば天秤のようなものだ。一般的にはどちらかを優先すれば、もう片方が犠牲になる。しかし、キリンの新しいシステム環境は見事バランスに優れている。VDIの導入によって得られる利点を十分に検証し、そのメリットを存分に活用したことで、社員の働きやすさを創造する礎となっている。このシステムは、キリンにとって企業競争力強化の源泉となるだろう。
“あたらしい飲料文化をお客様と共に創り、人と社会に、もっと元気と潤いをひろげていく。”という理念のもと、キリンビール社、メルシャン社、キリンビバレッジ社、キリン社が酒類事業、飲料事業の垣根を越えて一体となって、日本綜合飲料事業を展開しています。お客様や社会の声にしっかりと耳を傾け、さまざまなライフスタイルや価値観にあう商品・サービスを提供することを通じて、あたらしい価値を共に創っていきます。また、安全・安心を追求し、おいしさにこだわることで、お客様から信頼されるものづくりを目指します。