株式会社フィナンシャル・エージェンシー(以下、FA)は、保険代理店として約40の保険会社の商材を扱い、保険会社のコンタクトセンター運営および、銀行・クレジットカード会社・通信販売会社といった他保険代理店のコンタクトセンター運営を展開。金融商品を取り扱う上で、「禁則ワードチェック」および「重要事項の説明」がなされているかのチェックはガイドラインで定められた重要な業務とされている。一方で、その業務に費やす時間とコストのバランスに苦慮していた。そこで、FAは、通話内容を聞き起こし、内容をチェックする応対品質管理業務の効率化を目的に、AIを活用した書き起こしサービス「AI Log」の共同開発に乗り出した。
多くのコンタクトセンターでは、法令違反やガイドライン違反にあたる「禁則ワード」を発していないか、「お客様に必ずご案内すべきこと」をお伝えできているか、などを録音された通話内容から確認する品質管理業務に非常に多くの時間を費やしている。FAでも、契約獲得後のお客様へのアフターフォローにおいて、意向確認や間違った理解がされていないか等の品質管理業務を非常に重要視している。そのため、定常的に、年間4万時間におよぶ通話内容を、約60名からなる専門部隊が聞き起こし、適切にご案内できていない場合には、再度お客様にお電話にて正しくご案内するなどの対応を行ってきた。しかし、音声を聞きながら内容の確認を行い、必要に応じてテキスト化するには、経験者でも実際の通話時間の2倍の時間、すなわち年間8万時間もかかる。したがって、専門部隊を抱えるFAでも、これまでは申し込みいただいたお客様の約20%のチェックが限界だった。このように、聞き起こしからの確認作業を重要視する一方、そこに費やす膨大な時間とコストのバランスに課題を抱えるコンタクトセンターは多い。
また、チェックする担当者は、応対マナーや商材に関する知識はもちろん、法令や各社のガイドライン、コンプライアンスに対する十分な知識が求められる。チェックする担当者の知識や経験の差によって、指摘する精度にばらつきが生じやすいことも、課題の1つだ。 そこでFAは、音声認識技術を活用して確認作業を効率化し、コストバランスを適正化できないかと考え、S&Iと「AI Log」の共同開発に着手。2018年10月より、AI Logを利用した応対品質管理を行っている。
「AI Logの導入によって、書き起こし作業にかかる時間を大幅に削減できました」と話すのは、実際に業務にあたる山口翔子氏(管理本部 業務ソリューション部 QA課 チーフ)だ。
AI Logは、AIの音声認識技術を活用して通話内容を自動的にテキスト化し、「禁則ワード」の自動チェックとハイライト表示機能を持つサービスだ。テキスト化された内容をお客様とオペレーターの対話形式で表示することで、会話の流れを視覚的に把握できるとともに、吹き出し単位で再生/テキスト化された内容の編集も可能だ。さらに、ハイライト表示される禁則ワードの部分を優先的にチェックすることで、チェック作業の効率化が図れる。 「これまでは、音声データを耳でチェックしていたため、オペレーターの案内速度やお客様の対応速度によって、作業時間にも影響が出ていました。AI Logの導入により、聞き起こし作業は劇的に短くなったほか、目で見て判断できるようになり、確認作業がとてもスムーズになりました。また、音声認識精度も高く、導入前と比べて作業時間が半分程度になりました。」と山口氏は話す。
FAで導入したAI Logの学習データは、S&Iの学習データの専門チーム「CORPUS factory」が作成支援している。FAが保有する過去の音声データを元に音声認識の精度向上を実施し、最終的にはオペレーター側で90%以上の認識率を実現、音声品質などが環境によってしまうお客様側でも認識率は74%という結果が得られている。
高い音声認識率と聞き起こしの自動化により、作業時間を大幅に削減できたことで、これまで書き起こしに要していた時間を資料作成や研修の時間に充てられるようになった。また、新人教育においても、これまでは担当者の経験や知識によって正しく指導できるか差が生じてしまっていたが、禁則ワード機能の活用により、指導レベルも均一化できているという。FAでは、AI Logの導入により、年間約2,500万円ものコスト削減を実現している。
応対品質管理業務において、お客様へ伝える内容に漏れがないか、正しく伝えられているかなどの確認も、重要なポイントの1つだ。FAでも、確認業務のうちの7割がこの「伝えるべき内容」のチェックを占めているという。
「業務の中心である『伝えるべき内容をチェックする機能』を入れることで、さらなる業務効率化、費用対効果が得られると、開発当初からぼんやりと考えていました。しかし、具体的なイメージがなかった…。」と、柳堀 翔平氏(管理本部 業務ソリューション部 QA課 マネージャー)は振り返る。
保険のお申し込みをいただくお客様には需要事項や注意喚起情報などをすべて漏れなく正確に伝えなければならないため、FAでは、オペレーターが話す内容を完全にスクリプト化し、いい回しなどでお客様に伝わる情報量にばらつきが出ないようにしている。禁則ワードは会話のどこで発せられるのか、コールスクリプトをどんなに頭の中に叩き込んでおいても推測するのは難しい。一方で、必須案内事項は、コールスクリプトがしっかり用意されているため、会話のどの部分に出てくるか比較的探しやすい。ただ、複数の単語の組み合わせから成るため、説明できている/説明できていないを判断する軸をどこに置くのかがポイントとなった。
「AI Logを実際に使い始めて、徐々にリテラシーが身に付き、ある程度こうやったら実現できるのでは…?と構想が具体化できたタイミングでS&Iさんに相談しました。S&Iさんには、我々の潜在的なニーズを汲み取りながら、解決策に向けてさまざまな提案をいただけたので、実現化に進められました。」と柳堀氏。
新しく追加される「必須ワード」機能は、ある一定の発話の中に、「必ず説明しなければならないワード(以下、必須ワード)」が含まれているか/含まれていないかを自動的に抽出、視覚的に案内できている/できていないを判断できるようになる。 必須ワード機能を使えば、案内に不備のある応対を優先的に確認できるようになるとともに、テキスト化された応対内容から確認すべき箇所を効率的に見つけ出せるようになる。音声を耳で確認する作業に比べ、大幅な効率化が期待できる。FAでは、この「必須ワード機能」の追加により、年間5,000万円の人件費削減を見込んでいる。
「保険業界に限らず、企業コンプライアンスが求められる今、お客様への案内品質の担保は、多くの企業にとっての至上命題と言えます。当社もこれまでは当たり前のように、確認作業に多くのマンパワーを費やしてきましたが、そこには大きな人件費がかかってしまい、常に悩みの種でした。AI Logは、案内品質を担保しながら、人件費を最小化できるツールです。同じ悩みを抱える多くの企業で活用していただきたいですね」と柳堀氏は期待を寄せた。
※本記事は、2020年2月時点の情報を基に掲載しています。