第6回

VDIを実際に導入したセントラル短資FX様にインタビュー!どのように社内を説得したのか、立役者にそのノウハウを聞く。

「シンクライアントの導入効果を情シスの担当者は理解していても、上司や経営陣にはなかなかわかってもらえない」とか、「情報漏えい対策の一環として、トップの指示で一度は検討したものの、導入コストが壁となり導入を断念した」

という話をよく耳にする。社内の説得、これがシンクライアントの導入で、もっともハードルの高さを感じる部分といっても過言ではない。

『セントラル短資FX株式会社』様は、弊社がシンクライアントシステムを納めた大事なお客様だ。150台分の仮想PC型シンクライアント(VDI)を導入されたのだが、今回はセントラル短資FX様を訪問して、社内を説得するヒントになる情報を提供しようと思う。実に『シンクラ概論』の最終回にふさわしいテーマだ。


シンクライアントの検討は、業務の改善から

セントラル短資FX株式会社インフラ運営部の清水純さんに話を伺った。清水さんは社内のシステム運用を担当していて、VDIを導入する際に社内を説得した立役者だ。

S&I
シンクライアントを導入されたキッカケをお聞かせください。
清水さん
第1に『Windows XPのサポート終了』。このタイミングでPCをリプレイスするかどうか悩んでいました。弊社では、インターネットに接続できる端末と、顧客情報の閲覧専用のインターネットに接続できない端末を使い分けていて、1人2台体制だったので、PC台数も多く、リプレイスも案外コストがかさむという懸念もありました。多少は「世の中の流行」もあって、これを機会にシンクライアントを導入するのもアリだな、と考えていました。1台ごとのセットアップも簡単になるし、運用を考えるとPCのリプレイスよりも魅力的ではないかと。
S&I
複数の仮想デスクトップを用意して接続先を使い分ければ、1人1台体制になりますし、ワークスペースもすっきりします。何よりも共通のマスターを用意しておけば、基本的な環境をすぐに構築できるシンクライアントの方が、物理PCと比較して配布時の作業量を激減させることができます。
清水さん

インターネットに接続できる端末と、顧客情報にアクセスするPCと2台運用ということで、顧客情報の一部を外部に提供する場合やレート情報を顧客に提供する場合、暗号化されたUSBメモリにデータを入れて、それぞれのPCに移して対応していました。直接データを送付できない業務上の不便さと、セキュリティ観点での運用の正当性にも課題がありました。

USBメモリを使った業務を廃止したい!というのも、1つの動機になりました。

最初の反応は「費用が高い!」

S&I

なるほど。VDI技術で、USBを利用させる/させないが簡単に実装できることを考えると、USB制御もシンクライアント化の大きな動機づけになりますね。

シンクライアントの実行方式には、Citrix社のXenAppのようなプレゼンテーション型もありますが、なぜ、VMware社のHorizon ViewでVDIを採用されたのですか?

清水さん
弊社にはVMwareの開発環境があって、既にノウハウがあったことと、やはり世の中に導入事例が多かったからですね。限られたスタッフで運用するには、経験値のあるVMwareの方が安心でした。検証した際も、社内で使用しているアプリケーションのほとんどが問題なく動作しました。VMware上で動作しないアプリケーションはWindows 7でも動作しなかったので、VDI環境の問題ではないと判断して、VMware社のHorizon Viewを採用しました。
S&I
VDIといえば、高価なストレージやハイスペックなサーバーを用意しなければならず、どうしても導入コストが高くなってしまうのですが、御社の上層部の反応はいかがでしたか?
清水さん

当初、上司や経営陣、経理部門からは、やはり「費用が高い!」という反応でした。

VDI環境の導入とPCリプレイスで比較した場合、償却期間5年の試算でも、1,000万円以上の差がありました。普通のPCならせいぜい10万円弱で買い切りなのに対し、VDIの場合はライセンスを3年ごとに購入しなければならないので、この「差」をどう縮めるかが肝になると見ていました。

上司と経営陣を納得させる「策」とは

S&I
弊社のお客様にも、導入コストの高さを理由にシンクライアントを断念される方が本当に多いのですが、清水さんはどのような策を講じたのでしょう?
清水さん

基本は『VDIを入れた場合のメリットを徹底してプッシュ!』です。

ある意味デメリットは「初期コストの高さ」だけとも言えますので、PCをリプレイスした場合の「運用コスト」に目を付けて、実際にいくらかかるのかを数字で提示しました。

弊社の場合、PC故障は年間30台ほどになります。復旧にシステム部門のスタッフが、おおよそ1~1.5日かかりきりになります。その間PC使用者の業務も止まってしまうので、稼働の損失としては1回の故障で3人日程度かかっていました。単純計算で、年間30台×3人日で90人日、つまり社員1名がまるまる3か月くらい稼げないことになりますから、シンクライアントならこの稼働損失をなくせます!と強調しました。

合わせて、今回のVDI環境導入時にバックアップ環境の充実化も図っています。従来は各個人が使用するPCのバックアップを取得するためには実現のハードルが高かったのですが、VDIに移行することでバックアップの統合環境が組みやすくなったこともあり、各個人のVDI環境のバックアップを取得してリストア可能な環境を組むことで復旧までの時間短縮が可能になるというのも1つのポイントですね。

S&I
一般的にシンクライアント端末の故障率は、普通のPCに比べて低いですし、復旧も、マスターを再展開するだけですから、時間も労力もほとんどかからなくなるので、大きなメリットです。
清水さん

あともう1つアピールが効いたポイントが。VDI環境導入時のメリットの一つですが、災害発生時に万が一、本社ビルが倒壊してしまっても、常に自分のデスクトップ環境にアクセスできる、通常業務を遂行できるという点は、よい説得材料になりました。

弊社では、本社のほかに、データセンター内にオフィスルームを設けています。VDIの特長とも言える、どこからでも同じデスクトップを使える利点を流用し、被災したときはデータセンター内のオフィスルームをDR(Disaster Recovery)サイトとして利用できるようになり、BCPの観点で安心できる点を強調しました。

シンクライアントのメリットとデメリット、そしてプラスαでもうひと押し!

S&I
稼働損失の改善とDR対応が、説得材料のメインだったわけですね。
清水さん

はい。この2点を中心に丁寧に説明して、最後は社長判断で決定しました。

さらに効果的に映ったポイントは、運用にかかっている人員を、新たな業務に割けるようになります!という「プラスα」も付け加えたことですね。例えば、ビッグデータの分析などにもその分の人員が割けるようになるので、新たなビジネス発掘につながる業務に人員を配置できるようになるとか、業務アプリケーションの改善などに人員を割き、結果的に会社全体の業務効率が改善される、といった感じです。

ユーザー企業のシステム部門は、どうしても保守的な立ち位置の方も多く、「新たな何か」を始めることに対して構える方も多いかもしれません。しかし、このことはコスト削減に匹敵するメリットになると思います。

ただし、よくあるような「運用の人員を削減できる」という言い方は、その部門からの風当たりも強くなりますし、社内に敵を作るだけなので、おススメしません。あくまでも、「新たな業務にリソースを割ける」という攻め方がポイントです。

S&I
メリット・デメリットを明確にするだけではなく、メリットも単なる人員削減のようなネガティブな要素を打ち出すのではなく、削減できる工数をより生産性の高い別の業務に振り向けるというのは、経営層への説得材料として非常に効果的ですね。

強調すべき「メリット」は考え抜くべし!

清水さん

もともと2台持ちのPCを1台に集約できただけでもトータルコストが大幅に削減できる状態だったのですが、コストの話に終始しなかった点が説得力をアップできた要因だったとも言えます。自社が抱えている課題や必要としている環境の実現など、強調すべきメリットは企業ごとに異なると思いますが。

ところで、シンクライアントを導入した企業どうしの座談会に参加したことがあります。情報漏えい事故に遭われた企業の方は、いかにセキュリティ面での課題が解決できるか、という点を強調していました。弊社の場合は、PCを社外に持ち出すことがないので、ノートPCの紛失に対する情報漏えい対策といった点はそれほどのメリットにはなりませんが、社内にいる限りどこからでも自分のデスクトップ環境に接続できるという点は、大きなメリットとして考えていました。

むしろシンクライアント化でオフィスのフリーアドレスも可能になりますし、オフィス全体がオープンな雰囲気になります。会議室にも端末を置いておけば、自分のデスクトップにある資料を見せながらの打ち合わせも可能で、ペーパレス化にもつながると考えています。

支店や営業所が多い業種や企業の方は、本部でIT基盤を一元管理できるようになるので、運用面でのメリットが大きいでしょう。障害が発生する度に担当者が現地まで向かう必要がなくなり、その分の時間やコストを他に振り向けることができるようになります。

会社ごとに、強調すべきメリットは異なるはずですから、見当違いなメリットを押し出さないことがポイントですね。

VDIの導入後、変化したことは?

S&I
VDIの導入を経て、運用開始から半年が経過しますが、導入効果や社内の反応はいかがですか?
清水さん
今のところ端末の故障やシステム障害が発生していないので、ネガティブな実感は特にありません。クライアントの方も徐々に切り替えている最中で、現時点で7〜8割が完了したという状況です。VDI環境になったことで、PC配布時の作業がかなりラクになりました。かつては、トラブル時にユーザーのところまで行って実際に端末を操作していたのが、vSphere Clientの仮想コンソール経由でどこからでも操作できるので、運用管理という観点では、かなり負担が減りましたね。
S&I
シンクライアントの導入としては、一段落着いたところかと思いますが、今後の計画やロードマップはありますか?
清水さん
私物のタブレット端末を利用している社員が増えてきたので、社内限定でタブレット端末に接続できる環境も検討しています。社内利用限定のBYODですね。
S&I
最後に現在もしくは今後VDIを導入する方に向けて、何かアドバイスをお願いできますか。
清水さん

そうですね、ストレージだけは価格が多少高くても高性能な機種を選ばれることをおススメします。ディスクやメモリは、パフォーマンスに直結する部分なので、処理速度が速いものをしっかり選定することが重要です。

削減できるコストは削減しつつ、妥協してはいけない部分は、しっかり予算をとるのが重要です。私たちの事例が、みなさんの社内を説得するヒントになったら嬉しい限りです。

セントラル短資FX株式会社

  • 本 社 東京都港区三田三丁目5番27号 三田ツインビル西館14階
  • 設 立 2002年3月
  • 資本金 13億1965万円
  • 従業員数 92名 (臨時雇用を除く)
  • 事業内容
    主にインターネットを活用した「外国為替証拠金取引サービス」を提供。資金・為替の銀行間取引 ( インターバンク ) において100年の伝統を有するセントラル短資グループのシナジーを最大限に活かすとともに、ASP先などのパートナー企業およびカウンターパーティーなどのお取引先と積極的に協力関係を築くことで、お客さまに対し質の高い外国為替投資サービス『Quality FX』を提供している。

まとめ

「コストが高い!」という言われるVDIを導入されたセントラル短資FX様に、社内稟議を通すためのポイントを教えていただいた。ポイントは、「初期コストの高さだけに囚われず、シンクライアントで実現できることを徹底して整理して説得材料にする」ことではないだろうか。

稼働損失を数値化したり、災害発生時のメリット、BCPの観点などは、決裁権を持っている人たちの関心ごとに沿って良い説得材料を集めたものだと、話を伺っていて実に感心してしまった。みなさんも、自社にとってのメリットは何かを徹底的に追求しよう。